インターンシップの定番
事業活動からのキャッシュフローが,このキャッシュ利益の減少や新規投資により赤字となれば,現在保有する現金を使うか,それでも足りない場合は,銀行借入や株式発行によってファイナンスする必要が発生します。
この場合,どこからも資金調達できないと企業は倒産してしまいます。
また事業活動からのキャッシュフローが,その順調な事業運営のおかげで黒字であれば,銀行借入を返還したり,自社株購入のための原資として使ったりします。
このように,企業の財務部門はキャッシュフローを予測し,自社の財務戦略や,調達・返還等の財務オペレーションでの意思決定に活用していきます。
どんな投資でも,資本コストと投資元本を賄う現金が手元に返ってきて初めて,その投資が成功したといえます。
したがって,キャッシュフローとは事業での儲けを現し,将来発生するすべてのキャッシュフローの現在価値が,企業価値と定義されます。
またこの場合のキャッシュフローとは,事業活動から生まれるキャッシュフロー(フリー・キャッシュフロー)であり,企業価値とは,投資家である銀行と株主のものです。
フリー・キャッシュフローは第II章できちんと定義しますが,ここでは,キャッシュ利益から,現金で支払われる税金と事業活動への新規投資を差し引いたものと理解してください。
現在価値とは,企業の資本コスト率,つまり先ほど説明した税引後の銀行借入金と資本(エクイティ)コストの加重平均された率(WACC)で割引いたものです。
この企業価値から現時点での負債(銀行借入金等の有利子負債)を差し引くと,企業価値のうちで株主の持分が算出されます。
これが株主価値と呼ばれるものです。
このように,キャッシュフローとは企業や株主の価値を測定する非常に重要なものです。
通常企業が倒産するということは,このキャッシュフローが続かないことを意味しています。
この意味でも,キャッシュフローは大変重要なのです。
少し過激になりますが,「すべての道はキャッシュにつながる」と言い切ることにしましょう。
キャッシュフローとは,財務だけのものではありません。
研究開発をして,新製品を市場に競争相手より早く投入すれば,売上が増加して, (回収努力を行って初めて)現金での収入増へとつながります。
また,営業マンの努力による収入増もしかりです。
工場における原価低減は,現金での支出が減るという意味でキャッシュ増となります。
短期的視点も重要ですが,「長期的視点で考えるべき」とのご指摘もあるでしょう。
この「長期的視点」が日本企業の「錦の御旗」のようにいわれ,高度成長のスローガンともなり,日本的経営の美点のようにいわれた時期がありました。
しかし,いつまで経っても現金での収入につながらない投資は,長期的に意味あるものでしょうか。
必ずキャッシュでの収入がなければ,単なる浪費です。
企業活動のすべては,キャッシュに行き着きます。
なぜなら,企業は儲けを追求するからです。
管理部門では,残業が増えれば残業代が現金で流出します。
なんだか味気のない話になってきましたが,すべての部門の活動がキャッシュに行き着くのです。
キャッシュフローと利益との違い 「利益はオピニオンであり,キャッシュは事実である」といわれています。
利益は,自国の会計基準と自社が採用する基準に従えばこうなるという意見を述べているにすぎないのです。
また,利益は計算上だけのものであり,手で触ってみることはできません。
一方,キャッシュフローは現金の流れ(出と入り)を意味しています。
現金は実際に触ってみることができるため「嘘のつきようがない」というわけです。
株式市場における投資家の企業評価は,株価に現れます。
つまり投資家が高い評価をすれば,株価は高くなります。
この株価の業績との相関関係を,欧米の株式市場で測定した結果があります。
これによると,株価との相関関係では,利益とは意味ある関係を見いだすことはできません。
一方キャッシュフローとの間では,統計的に意味ある関係を見いだすことができます。
投資家が,利益よりキャッシュフローに重きをおいていることがわかります。
また株式市場は,企業のキャッシュフローに敏感です。
理論的には,企業の株主価値は将来のキャッシュフローによって決定されることを証明しています。
利益がオピニオンとなるのは,設備投資のようにキャッシュアウトが一時的に起こるものでも,その便益が続く期間で投資総額を標準化すること等に起因しています。
この投資総額の標準化を,減価償却といいます。
減価償却は,ある年に発生した投資額をある基準(定率法,定額法)でその後の年度に割り振るものであり,当然キャッシュで流出するコストではありません。
このようなコストを,ノンキャッシュ(非資金)費用と呼びます。
ここで面白いエピソードを紹介しましょう。
筆者が所属するある学会で,ある有名大学の先生が,そうそうたる日本企業のトップを相手にキャッシュフローの講義をしました。
その時に,「それでは減価償却は重要でないのか」という疑問が出たそうです。
これなどは,単年度重視の視点が影響しています。
世の中で損益計算書が対象とする期間は,最大で1年です。
もし投資した設備やそれによって製造される製品のライフサイクルに合わせた,いわゆる多年度会計があれば,投資年での投資金額とレその後それをカバーするキャッシュ利益を表示すれば,減価償却がなくても投資元金を忘れることはありません。
しかし,最大が1年という財務諸表を作成するため,投資総額を毎年減価償却という形で計上する必要が生まれます。
これを毎年差し引かないと,元本の支払部分がどこかにいってしまいます。
しかし,減価償却方法は国や企業によって違いがあり,同じ経済行為を行っていても,その違いによっては利益が違ってきます。
ここが問題となります。
またよく考えると,キャッシュフロー表を見れば,それが単年であっても,設備投資が計上されています。
もし毎年の投資に大きな違いがなければ,いわゆるフリー・キャッシュフロー(事業活動からのキャッシュフロー)を把握していれば,元金の回収を忘れるということはありません。
また過去大きな投資をしたのであれば,多年度会計を導入して投資管理を行えばよいのです。
日本企業がキャッシュフローを軽視する一つの理由として,この単年度での利益重視があります。
常に単年度の売上や利益ばかりに目がいってしまい,キャッシュフローを忘れがちになります。
ノンキャッシュ費用には,減価償却以外に年金や退職金向けの準備金・引当金があり,これは,将来の支払に対する備えとして,前もって損益計算書でマイナスし,貸借対照表上の負債として計上しておく「会計上の操作」です。
1990年代後半の社会的問題であり,日本経済を悩ませている銀行の不良債権の例を見てみましょう。
たとえ利益が赤字になろうが,不良債権をすべてもしくはその大半を,ある年に償却するA銀行と,利益をよく見せようとして今までの慣行に従って不良債権の60%しか償却しないB銀行では,両銀行の償却前利益が同じであっても,償却後の税前利益は違ってしまいます。
B銀行の方が,収益性でA銀行より勝るということになります。
しかし,投資家やマーケットはこのことをよく知っており,A銀行のように積極的に自行の不良債権を償却する銀行の株価評価は, B銀行よりよくなっています。
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